
「古民家を民泊旅館として再生したいと考えたとき、多くの方が最初に思い浮かべるのが「思い切ってフルリノベーションしたほうがいいのでは?」という発想ではないでしょうか。
暗い、寒い、使いにくい。
古民家には確かにそんな印象があるかもしれません。だからこそ、壁を壊して広いLDKにする、古い建具を一新する、内装をすべて新しくする──そんな方向に考えがちです。
しかし実は、古民家を民泊旅館として魅力的な空間にするうえで、“全部新しくすること”が必ずしも正解とは限りません。
むしろ物件によっては、壊しすぎることで暮らしにくくなり、宿としての魅力も損ない、結果的に「なんだかダサい」「落ち着かない」「コストばかりかかる」空間になってしまうこともあります。
今回ご紹介するのは、木造3階建ての古民家を、古さの良さを生かしながら民泊旅館として価値を高めたリノベーション事例です。
ポイントは、あえて繋げない、あえて塞ぐという逆転の発想。
この考え方によって、空間の使いやすさと宿としての世界観を両立させることができました。
古民家を宿として再生する際、よくある思い込みがあります。それは、
といった考え方です。

もちろん、物件によってはそれが合う場合もあります。
ですが、今回のような木造3階建ての古民家や、再建築不可など条件に制約のある物件では、この発想が裏目に出ることがあります。
たとえば壁をなくして大空間にすると、
といった問題が起きやすくなります。
つまり、古民家民泊で大切なのは「とにかく広くすること」ではなく、その建物に合った形で、視線・動線・居心地を設計することなのです。
今回の物件では、1階のリビングとダイニングをひと続きの広いLDKにするのではなく、あえて繋げないという判断をしました。

一般的なリノベーションでは、壁を壊して「広く見せる」方向に進むことが多いですが、この物件ではそれが最適解ではありませんでした。
理由のひとつは、動線の問題です。
無理にひとつの空間にまとめると、人が通るための通路の比率が大きくなり、実際にくつろぐための家具配置が難しくなってしまいます。広そうに見えて、実は使いにくい。そんな状態になりやすいのです。
もうひとつの大きな理由は、寒さです。
この家はダイニングと階段が近く、空間を大きく繋げてしまうと暖かい空気が上階へ逃げやすくなります。特に冬場は、リビングもキッチンも寒く感じやすく、宿泊者の快適性を下げる原因になります。
だからこそ、壁は残す。
その代わり、限られた空間の中でどうすれば広く、楽しく、心地よく過ごせるかを丁寧に設計していく。そこにこの事例の大きな価値があります。
今回のリビングで印象的だったのが、押入れの活かし方です。
古民家の押入れは、「つぶして床を広げる」という処理をされることがよくあります。 しかし、ただ床を広げてヌックスペースや腰掛けをつくるだけでは、空間の中で人の向きがバラバラになり、視線が交わらず、孤立した場所になってしまうことがあります。
そこで採用したのが、斜めの小上がりです。
床の高さを少し上げ、座れるスペースを設けながら、角度を少し斜めに振ることで、そこに座った人の目線が自然とリビングの中心へ向かうように設計しました。

すると、ソファにいる人と小上がりにいる人の視線がつながり、会話が生まれやすくなります。 空間の広さは限られていても、視線の設計によって“つながり”は生み出せる。
これは民泊旅館において非常に大きな価値です。家族や友人同士で集まり、自然に会話が弾む空間は、それだけで宿の体験価値を高めてくれます。
リビングに合わせたソファも、この考え方に基づいて選定されています。
狭い空間では、直線的で存在感の強いソファを置くと圧迫感が出やすく、人との距離感もかたくなりがちです。
そこで今回は、カーブを描く形状で背もたれの低いソファを採用しました。

このような家具は、空間に柔らかい印象を与えるだけでなく、視線の流れを自然につくり、斜めの小上がりとの相性も非常に良くなります。
小上がりのラインとソファのカーブが重なることで、空間全体にやさしいまとまりが生まれ、会話の輪をつくるようなリビングになります。
民泊旅館における家具選びでは、「何人座れるか」だけでなく、その家具が空間の空気感をどうつくるかまで考えることが大切です。
古民家を民泊宿にする際、意外と難しいのが壁紙選びです。
写真映えを意識するあまり、派手な色や大胆な柄を選びすぎてしまう。
逆に、きれいに見せようとして真っ白で新品感の強いクロスを入れてしまう。

こうした選び方は、一見よさそうに思えても、古民家の持つ木の質感や建具の風合いとちぐはぐになりやすく、結果として「なんとなく安っぽい」「どこか落ち着かない」空間になってしまいます。
古民家リノベで大切なのは、古さを消すことではなく、
古さの魅力を引き立てることです。
今回の事例では、空間全体の方向性としてレトロモダンを意識しました。
木部や既存の素材感と調和しながらも、野暮ったくならず、宿としての品のよさを感じられるようなバランスです。

アクセントクロスは主張しすぎず、それでいて世界観の核になるものを選ぶ。
ベースクロスは木の色味と自然になじむ落ち着いたトーンを選ぶ。
この組み合わせによって、古民家らしい温もりを残しつつ、宿としての上質さを引き上げることができます。
今回の事例では、1階のリビングで使用したアクセントクロスを、2階の寝室でもあえて同じように取り入れています。
これは単なるコスト調整ではなく、宿全体に“つながり感”をつくるための設計です。
空間ごとにすべて違うテイストにしてしまうと、宿全体の印象が散らかりやすくなります。ですが、共通する要素を要所に入れることで、「この宿らしさ」が生まれます。

民泊宿は、ただ泊まるだけの箱ではなく、記憶に残る体験の場です。
そのためには、一部の空間だけを派手にするのではなく、全体を通じて世界観が流れていることが重要です。
古い住宅には、今の暮らし方から見ると不要な出入口が多いことがあります。
今回の寝室でも、本来ならドアがあった場所を、あえて壁にしました。
一見すると「わざわざ塞ぐなんてもったいない」と感じるかもしれません。
ですが、出入口が多い部屋は、家具をきれいに配置するための壁面が不足しやすいのです。
特に寝室では、ベッドのヘッドボードをしっかり見せる壁があるだけで、空間の印象がぐっと整います。
不要な開口を減らし、壁面をつくることで、家具がきちんと収まり、ホテルライクな上質感が生まれます。

リノベーションというと「壊す」ことに意識が向きがちですが、
実際には塞ぐことで価値が上がることも多くあります。
古民家再生では、この発想がとても重要です。
宿づくりでは、見た目の美しさだけでなく、安全性も大切な価値のひとつです。
今回の事例では、急で簡易的だった既存の階段を、安全性に配慮したものへと見直しています。
民泊には、小さなお子さま連れのご家族や高齢の方が宿泊することもあります。写真映えするだけでなく、安心して過ごせることは、満足度や口コミにも直結します。

また窓まわりでは、あえてカーテンを用いることで、古民家に重厚感とやわらかさを加えています。
すっきり見せることだけが正解ではなく、その空間に合った素材感を選ぶことが、宿としての印象を大きく左右します。
今回の3階スペースは、単なる収納ではなく、キッズスペースとして活用されています。
プロジェクターを設置したり、リラックスできるクッションを置いたりすることで、家族連れにも嬉しい居場所へと変わりました。
こうした工夫は、単に部屋数を増やすこと以上に、「この宿ならではの思い出」をつくる力があります。

民泊宿として価値を高めるためには、
部屋を増やすことや設備を足すことだけではなく、
誰がどう過ごすかを想像した余白のある設計がとても大切です。
古民家を民泊宿として再生する際、「古さを残すと中途半端になるのでは」と不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
ですが実際には、古民家の魅力は“新しさ”ではなく、
時間を重ねてきた素材感や空気感そのものにあります。

もちろん、そのままでは使いにくい部分もあります。
だからこそ大切なのは、全部を消すことではなく、
残す部分・変える部分・塞ぐ部分・つなげる部分を丁寧に見極めることです。
今回の事例でも、フルリノベーションをしなくても、視線と動線を整え、素材の相性を考え、宿泊体験を意識した設計をすることで、十分に価値ある空間へと生まれ変わりました。
古民家を民泊宿として魅力的に再生するために大切なのは、
古いものを片っ端から新しくすることではありません。
むしろ、
といった視点こそが、宿としての価値を高めていきます。
古民家には、制約があるからこそ生まれる魅力があります。
その魅力をきちんと読み解き、建物に合った形で整えていくことで、ただ新しいだけではない、記憶に残る民泊宿が生まれます。
“全部直す”のではなく、“どう生かすか”。
それが、古民家の雰囲気を残しながら、民泊宿として価値を高めるための本質です。
当コラムに登場した実際の古民家民泊リノベーション事例はこちら。空間作りのヒントにお役立てください。
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